仕組みづくりで変化に強い組織へ成長を遂げた福祉事業の挑戦:たまみずきグループ 櫻井元氏

仕組みづくりで変化に強い組織へ成長を遂げた福祉事業の挑戦:たまみずきグループ 櫻井元氏

事務所名:

たまみずきグループ

代表者:

櫻井元

事務所エリア:

東京都練馬区

開業年:

平成21年9月

Q.現在の事業内容を教えてください

「現在の事業内容は障害福祉サービスですね。放課後等デイサービスという障害を持ったお子さんが放課後に通う場所、これが売上の一番多くを占めます。他にも訪問介護、相談支援事業というケアプランを作成する事業も行っています。

放デイは小学生から高校生の方が対象で、訪問介護は高齢者と障がいを持った方が対象ですが、どちらかと言えば障害者のほうがメインですね。身体障害、知的障害、発達障害、精神障害などをカバーしています。ケアマネ事業は多くの福祉サービスから利用者や保護者のニーズにあったサービスを提案してプランを作るお仕事です。それ以外には認可学童保育事業や介護タクシー事業を行っています」

Q.創業のきっかけは、どのようなものだったのですか?

「双子の娘が先天性の障害を持っていることが創業のきっかけで、社名の由来にもなっています。元々は私も子どもたちを預けるつもりでしたが、15年前はそうした施設がなかったんですよね。

そこで色々と調べて収支計画などを作ってみたら、これは収益性が高いなと(笑)。それに勿論ですが施設はあったほうが良いということで、当時勤めていた会社の社長に相談したところ、もう働いている場合じゃないよ、やったほうが良いよと背中を押していただいたので、事業を立ち上げたという感じです。娘たちが小学校5年生の時、2009年のことでした。

放デイはただ預かるだけではなく訓練のための場所という位置づけで、未就学児のためのサービスとしてはじまり、経過措置を経て平成24年から正式に小学生以上も対象になったという経緯のある支援制度です。創業時はまだ制度の開始から10年も経っていない頃で、珍しくてあまり知られていなかったので、皆さんへこんなサービスがありますよと伝えるところからスタートしましたね。

創業当初は障害者支援という枠でしたが、平成24年の制度改正以降は児童福祉法の枠にも入ることになり、ある意味そこで再スタートしたという感じです。」

Q.同業他社との差別化や成功要因はどのように考えていますか?

「やはりトータルサポートですかね。同業他社は数多くいるのですが、基本的に放デイばかりをやっているという所がほとんどです。一方、弊社は地域密着で色々なサービス展開をしていますから、放デイと相談支援、訪問介護や移動支援、一時的にお預かりするショートステイの施設など、多方面かつトータルで生活をサポートできるのが特徴になっています。

成功要因というのか、障害者と接するのはハードルが高いというイメージを持たれている方は多いと思いますし、確かに難しいこともあるのですが、そこは人間同士ですから障害の名前なんて分からなくても、関わっていくことで接し方は解ってくるものですよ。利用者さんがトラブルを起こすのも、それを引き起こしているのはこちらなので、環境を整えてあげたり関わり方を変えてあげたりすることで落ち着いてくれますから、経験値で乗り越えられるものだと思います。知識も多少は必要ですが、どちらかといえば経験しながら工夫していくという感じですかね、例えばひとくちに自閉症と言っても色々な子がいますから。

支援が上手い人というのは関係構築が上手い人で、これができないと同じことを言っていても相手は聞いてくれなかったりします。弊社は市の認可を受けて学童もやっているのですが、子どもとの関係も同じで、大人がちゃんと人として接しないと言うことを聞いてくれませんし、わざと悪いことをしたりする子もいるので、関係を作ることは本当に大事ですね。言葉のコミュニケーションができなかったとしても関係は築け、相手は受け入れてくれるものだと思います。」

Q.過去、もっとも経営が厳しかったとき、どのようなことがありましたか?どう乗り越えましたか?

「もっとも経営が厳しいのは、今ですね(笑)。福祉事業はサービスごとに報酬単価が決まっていて、基本的に人員の配置次第で事業の利益が大きく変わってきます。また、事業者数が増えてくると国が単価を下げてきますので、一応利益は出るものの、大きくは儲からないというのが業界としての現状です。

辛かったのは10年ほど前ですかね、事業を拡大し過ぎて金銭的に苦しく、なんとか借り入れで凌ぎましたが、黒字倒産って本当にあるんだなと思いました。利益が出ているのにお金がないってどういうことなんだと。その借り入れも金融機関には応じてもらえず、知人で役員でもあった人に相談したところ、もっと早く言ってこいよと言われて一時的にお借りしたという形でした。

今は今で事業再構築補助金に採択されてしまって、本当に必要だと思った業務支援システムではあるのですが、支給されるまでは全額持ち出しなんですよね。ずっと公金で賄うものではない事業をやりたいと思っていたものの思いつかずにいたところ、システム会社と話している中で補助金の話が出た時に面白いなと、これは一つの柱になるなとアレンジした計画が採択されて、次は資金調達が課題になってしまいました。とはいえ株式投資型のクラウドファンディングサービスによる支援や、借り入れの話も進んでいるのでなんとか乗り切る目処はついたので、大丈夫だと思います。」

Q.採用、教育など組織論のポリシーはありますか?

「最初は社員1人1人がオーナーシップを持っている組織を理想として掲げていたのですが、途中から違うなと、やはり仕組みだなという風に今は思っています。大前提としてPDCAを回していくということはあるのですが、人事評価や面談の方法などルールをちゃんと作って、意図した通りにやっていく、その仕組みづくりを色んな分野で取り組んでいるところです。

マインドセットとしては、オーナーシップも大事ですが、仕組みづくりも教育だと思っています。何故かというと、福祉施設は子どもの玩具など年々物が増えていく傾向があり、どんどんスペースが無くなっていくのを見てきたことによって、本当に必要なのかを考えることが大切だなと感じたんです。捨てて、使いやすいように整頓して、清潔を保つという毎月のプロセスを、社内ルール化して回転させていくことで、気づき・発見を促すような仕組みを工夫しました。

以前、弊社を外部評価してもらった際に、一見自由で良さそうだけど、やりたいことをやっているだけで何の統一性もないし特徴もないと言われたことがあります。自分たちで何かを考えてやっていくにあたっては、個々人の考えることがどんなに良かったとしても、何かルールがなければ進んでいく方向性がバラバラになってしまうので、結局は仕組みがなければダメだということではないでしょうか。また、拡大という側面から考えても、やはり大きくなっていく組織にはルールがあって、その通りにスタッフが動いているものですからね。」

Q.影響を受けた人は誰ですか?

「残念ながらもう亡くなってしまったのですが、役員になってくださったIさんです。資産家でもあり、元々塾や不動産など色々な事業で大成功されていた方で、非常に影響を受けました。あとは有名コンサルティング会社の創業者さんや、最近親しくなった方としては採用コンサル会社を経営しておられるKさんからも凄く影響を受けています。

Iさんからは、じっくり考えろと言っていただいたことが印象に残っていて、私は結構思いついたらすぐに動いてしまうのですが、ご本人もそれで失敗したと仰っていましたね。ちゃんと資金計画を立てて、やれると思ったらやるんだということを教えていただきました。苦手な部分なので今も事業再構築補助金でやらかしていますが(笑)。

有名コンサルティング会社の創業者さんからは、やはり仕組み経営ですね、社内で同じ方向を向く、共通認識を持つ。また、本心でどう思っているのかは関係なく行動する人が成果を出すということにも共感しました。人が活躍できるような仕組みを作ることで会社も人も成功させるという考え方は、弊社の経営にも取り入れています。

Kさんの採用は革新的で、発想が凄いなと思いましたね。弊社もコンサルを受けて、今では自走できるようになりました。シミュレーション形式の仕事体感を通じて学生が入社後のキャリアストーリーを体感できるワークがあって、面白いですよ。採用説明会で実施するため時間が掛かるのですが学生の満足度は高く、採用する側が選ぶのではなく体験を通じて労使の方向性を一致させていき、合致した人が残っていくというワークなので、学生は自分の向き不向きが分かりますし、企業としては採用したい子が残るんです。もちろん採用側のハンティング力も必要ですが、基本的にはマッチさせていくというコンセプトが凄く良いなと思いまして、導入してからは弊社でも定期的に3名〜4名は採用できるようになりました。」

Q.これから生き残っていける企業の条件はどのようなものだと考えますか?

変化に対応することでしょうね。人口は減っていきますし、外国人も増えるでしょうし、そう考えた時に今のままで良いのかということがありますから、もっと言うと変化に強い組織を作れということでしょうか。

スタッフが変化にどう対応できるのか、朝は右だと言っていたのに夕方には左だと言う社長についていけるのかどうか、そういうことだと思います。」

Q.今後の展望についてお聞かせください

「将来的には福祉事業をゆりかごから墓場までやろうと思っています。例えば放デイは高校を卒業すると利用できませんので、その後は就労支援やデイサービスなどの成人を対象としたサービスに移るのですが、弊社はまだ18際以降をカバーできていませんので、そちらへも事業展開したいと考えています。

このように現業については今後も継続して必要なものをやっていくつもりですが、先にお伝えした通りそれほど大きな利益の出る事業ではなく、売上にも上限がありますので、これだけではスタッフを幸せにできないなとも思っていて、関連しているけれども制度外の事業を別の柱として据えたいですね。

その1つとして開発を進めているのが「『シエノワ』~支援の輪」という記録に特化した業務支援システムで、同業者へ訴求していくのと同時に自社でも使用してどんどんバージョンアップしながら拡大していく構想です。結果として自社の業務も楽になりますし、業績が上がれば会社は成長し、スタッフのお給料も上がると考えています。

システム導入の具体的なメリットとしては、主として情報共有の円滑化ですね。特に障害を持ったお子さんは病院や行政、学校や福祉サービスと、色々な組織が情報を持っているのですが、親御さんは親御さんで、福祉組織は福祉組織でそれぞれに情報を管理していて全く共有できていないため、それをシステムで解消しようということで取り組んでいます。

例えば診断結果や発達検査などの生育歴を記録していき、行政や支援機関といつでも共有できれば、親御さんはお子さんの状況をいちいち説明せずに済むんです。実際に私も色々な人に同じことを話すのが大変で、ツールを調べたのですが無かったんですよね。もちろんセキュリティはしっかり担保する必要がありますから、相互認証で共有しても良い人を限定しての運用になりますし、ゆくゆくは記録から支援計画を自動立案したり、AI相談など時代に合わせた機能も盛り込みたいと考えています。

また、このシステムや福祉障害分野の制度そのものを、そうした制度がない国、特にアジアへ持っていくというワールドワイドな構想や、最近YouTubeをはじめたので福祉で面白いことをやっている人や施設と一緒に何か広めていきたいなという思いもあって、将来的にビジネスになったら良いなと考えているところです。」

経歴:1973年生まれ。
東京電機大学卒業後、パンローリングのシステムエンジニアで活躍していたが、双子の娘に先天性レット症候群という障がいが発覚。
当時、障がい児が放課後に通える施設が少なく、様々な情報を集めるうちに、「自分でつくろう」と思い立ち、勤めていた会社を辞めて2009年9月1日に障がい児専門のデイサービスを開所。
「たまみずき」という名前は、双子の娘「珠希(たまき)」、「瑞希(みずき)」からとり、母親が命名。
現在の活動:主に障がいを持った子どもたちの放課後の居場所、放課後等デイサービスを中心に様々な福祉の事業を行う。最近では介護タクシー事業も取り入れ、設立から10年経つ現在も事業を拡大。また、障がいをもつ子や家族、その地域をつなげる様々なイベントも開催している。